祖母と食卓で紡ぐ日々 第五章:宅食との出会い

新しい選択肢との遭遇

嚥下障害と向き合いながらの食事作りは、私たち家族にとって日々の挑戦だった。調理の手間を惜しむつもりはなかったが、仕事や家事で忙しい日々の中では、どうしても時間が足りないこともあった。

そんなある日、母が地域の高齢者向けサービスについて調べていたとき、「宅食サービス」という選択肢があることを知った。
「おばあちゃんにピッタリかもしれないわね。」
母が嬉しそうにパンフレットを持ってきたのを覚えている。

そこには、嚥下障害の方にも対応した「やわらか食」や「ムース食」、バランスの取れたメニューが週替わりで届くといった魅力的な内容が書かれていた。


初めての宅食注文

試しに1週間分の宅食を注文することにした。届いたのは冷凍状態の小分けパックに入ったセットメニューで、温めるだけで食べられる仕組みだ。メニューには、主菜に柔らかく煮た白身魚、副菜には野菜の煮物やほうれん草の白和えが並んでいた。

「おばあちゃん、これを試してみようか?」
「こんなものがあるのね。便利そうだけど、味はどうかしらね。」

祖母は半信半疑の様子だったが、電子レンジで温めて食卓に並べると、その見た目の美しさと香りに少し興味を持ったようだった。


宅食の実力

初めて宅食を口にした祖母の感想は意外にもポジティブだった。
「柔らかいけど、しっかり味がして美味しいわ。」

特に、野菜の煮物はとろけるような柔らかさで、祖母の飲み込みにも負担がかからないよう工夫されていた。また、ムース状の副菜は、彩りも豊かで食欲をそそる見た目だった。

その日の夕食後、祖母がこう言った。
「たまにはこれもいいわね。全部手作りじゃなくても、ちゃんと考えられているものなら安心できるわ。」

その言葉に、私たちもほっとした。宅食が祖母の食事を補う新しい選択肢として機能する可能性を実感した瞬間だった。


宅食のメリットと課題

宅食を利用する中で、いくつかのメリットを感じた。

  1. 時間の節約

    調理の手間が省けるため、忙しい日の負担が軽減された。これにより、私たち家族も祖母との会話や食卓での時間をより楽しむ余裕が生まれた。

  2. 栄養バランス

    管理栄養士が監修したメニューのため、祖母が必要とする栄養素がしっかりと摂れる設計になっていた。

  3. バリエーション

    家庭では作れないようなプロの味や、新しい食材の組み合わせを楽しむことができた。

しかし一方で、課題もあった。祖母が「冷凍食品」という印象を持っているため、温め直しても「家庭料理に比べると少し物足りない」と感じることがあったのだ。また、全てを宅食に頼ると食卓が単調になり、家族全員が一緒に楽しむ雰囲気が損なわれる可能性もあった。


宅食と手作りの融合

そこで私たちは、宅食を完全に頼るのではなく、手作りと組み合わせる形で活用することにした。例えば、宅食の主菜に家庭で作ったスープや漬物を添えることで、祖母が家庭料理の温かみを感じられるよう工夫を加えた。

「これなら、ちょうどいい組み合わせね。」
祖母も納得してくれたようで、私たちは徐々に宅食を日常に取り入れていった。


宅食がもたらした安心感

宅食を取り入れることで、私たち家族の負担が軽減されたことはもちろんだが、何よりも祖母が「食事を安心して楽しめる」ようになったことが大きな変化だった。

ある日、祖母がこう言った。
「最近は、何を食べられるか不安に思わなくて済むから気持ちが楽よ。」

その言葉は、宅食という選択肢がもたらした安心感を象徴しているように思えた。


未来の選択肢を広げる

宅食との出会いは、私たちにとって新しい食事の可能性を広げるきっかけとなった。手作りにこだわるだけでなく、外部のサービスを賢く利用することで、家族全員が無理なく祖母を支えられる環境が整っていった。

これからも祖母が食事を楽しめるように、私たちは宅食をうまく取り入れながら、家庭料理の温かさも大切にしていきたいと思った。

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