祖母と食卓で紡ぐ日々 第三章:やわらか食との出会い

変化への第一歩

嚥下障害の診断を受けた祖母のために、私たち家族は「食べやすい食事」を模索し始めた。診察の際に医師から教えてもらった「やわらか食」という言葉が、その第一歩だった。

「やわらか食って、どんなものなんだろうね?」
母と話しながら調べてみると、やわらか食は噛む力や飲み込む力が弱くなった人のために考えられた食事形態だということが分かった。スーパーや介護用品店で手軽に手に入るものもあれば、自宅で簡単に作れるレシピも紹介されていた。

私たちは早速、やわらか食の導入に挑戦することにした。


市販品から始めたやわらか食

最初に試したのは、市販のやわらか食だった。冷凍で販売されている調理済みのものや、レトルトパウチに入ったものは、手軽に温めるだけで準備ができた。鶏肉の煮込み、魚のすり身団子、柔らかく煮込まれた野菜の煮物などがラインナップされており、初めて使う私たちにとってはとても助かる存在だった。

「これ、便利ね。」
母がそう言って開けたパウチからは、柔らかく煮込まれた根菜の香りが広がった。早速祖母に出してみると、彼女は興味深そうに一口食べた。

「うん、食べやすいわね。」
祖母のその一言が、私たちにとって大きな安心となった。

しかし、市販のやわらか食を試しながらも、私たちには一つの課題が残った。それは、「これだけでは祖母にとって味気ないのではないか」という点だった。見た目がシンプルすぎたり、家庭料理に慣れている祖母には少し物足りなく感じる部分があった。


自宅で作るやわらか食への挑戦

市販品だけでは満足できないと感じた私たちは、祖母の好みに合わせて自宅でやわらか食を作ることにした。初めて挑戦したのは、祖母が好きだった肉じゃがだ。じゃがいもや人参を通常よりも小さく切り、圧力鍋を使ってとろけるほど柔らかく煮込む。味付けはいつも通りにし、できるだけ祖母が「これまでと変わらない」と感じられるよう工夫した。

完成した肉じゃがを一口食べた祖母は、少し驚いたような表情を浮かべた。
「これ、柔らかいけどちゃんと肉じゃがの味がするわね。」

その言葉に、私たちは少しだけ自信を持てた。やわらか食を取り入れることで、祖母の嚥下を助けるだけでなく、「食べる楽しさ」を維持することができるのではないかという希望が見えてきた。


やわらか食の奥深さ

自宅でのやわらか食づくりに慣れてくると、私たちはさらに工夫を重ねるようになった。例えば、食材をゼラチンや寒天で固めて見た目に変化をつけたり、ポタージュスープに鮮やかな緑色のブロッコリーを添えるなど、彩りを意識した盛り付けを試みた。

「これなら見た目も楽しいでしょ?」
母が作った彩り鮮やかな野菜のゼリー寄せを見た祖母は、笑顔を浮かべながら箸を伸ばしてくれた。

さらに、やわらか食にとろみをつける技術も学んだ。スープや煮物にとろみを加えることで、飲み込みやすさが格段に向上し、むせる回数がさらに減った。


やわらか食がもたらす家族の変化

やわらか食を取り入れることで、祖母の食事がスムーズになっただけでなく、家族全員の食事に対する意識も変わっていった。「食べること」が単なる日常の行為ではなく、祖母の健康や心の安定を支える重要な要素であることに気づかされたのだ。

また、やわらか食を家族みんなで試すことで、祖母が「特別扱いされている」と感じないように配慮することができた。たとえば、やわらかい煮魚を全員で食べる日を作ったり、祖母用にアレンジしたメニューを家族全員で共有するなど、同じ食卓を囲む喜びを共有する工夫をした。


やわらか食を通じて見えた未来

やわらか食の導入は、祖母のためだけでなく、私たち家族全員にとっての新しい挑戦だった。料理に込める心配りや、食材の選び方ひとつをとっても、これまで以上に考えるようになった。

祖母が一口食べるたびに見せる「美味しい」という表情は、私たちにとって何よりの報酬だった。そして、その表情を見続けるために、私たちはさらに多くの工夫を試し続けようと心に決めた。

やわらか食は単なる食事の形態ではなく、祖母と家族の絆を深めるための手段となった。その可能性に気づいたとき、私たちはまた一つ大きな希望を見つけたような気がした。

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