祖母と食卓で紡ぐ日々 第二章:むせる頻度の増加

診断後の日常

嚥下障害の診断を受けた祖母の食卓は、それまでとは明らかに変わりつつあった。しかし、診断後もむせる頻度がすぐに減るわけではなく、むしろ私たちが「むせる音」に敏感になったことで、祖母の食事風景に違和感が増していった。

ある日の夕食中、祖母が味噌汁を飲みながら咳き込んだ。何度か咳を繰り返した後、ため息混じりにこう言った。
「なんだか、何を食べても安心して飲み込めない気がするわ。」

その一言に、私は胸が痛んだ。安心して食べることができない食卓は、祖母にとってどれほどつらいものなのだろう。


変化を恐れる祖母

診断を受けたものの、祖母は「特別な食事」に対して少し抵抗を示していた。
「何でも普通に食べられるんだから、大袈裟にしないで。」

祖母の言葉には、「これまでの自分らしさ」を守りたいという思いが込められているようだった。それでも、むせる音が増えるたび、私たちはそのまま見過ごすことができなかった。

「おばあちゃん、普通の食事でもいいけど、ちょっとだけ工夫してみない?」
私がそう提案すると、祖母はしばらく黙った後、「まぁ、試すだけなら」と渋々頷いた。


食べ物とむせる頻度の関係

診断後から、私たちはどのような食材や調理方法がむせる頻度に影響を与えるのかを観察し始めた。祖母が特にむせやすいのは以下のような食品だった:

  • 乾燥した食べ物(せんべい、パンの耳など)
  • 粘度のある食べ物(粘度の調整のきかない食べ物。とろろ、納豆など)
  • 液体(スープ、味噌汁)

逆に、柔らかく水分を含んだ食品や、飲み込みやすいテクスチャのものは比較的スムーズに食べられるようだった。

ある日の夕食で、私は試しにいつもの煮物に少しとろみを加えてみた。
「どうかな?」
祖母に聞くと、「これ、飲み込みやすいわね」と意外にも好評だった。その一言が、私たち家族にとって新たな食事作りへの一歩となった。


むせる恐怖が食事への意欲を奪う

むせる頻度が増えただけでなく、祖母は食事に対する意欲そのものを失いつつあった。特に、家族が食事を楽しんでいる中で一人だけむせる状況は、祖母にとって心の負担となっているようだった。

「みんなと同じように食べられないのが悔しいわね。」
祖母がぽつりと漏らしたその言葉に、私たちは何とかして「同じ食卓を共有する」という感覚を取り戻したいと強く感じた。


小さな工夫の積み重ね

むせる頻度を減らし、祖母が食事を楽しめるようにするために、私たちは少しずつ工夫を重ねていった。例えば:

  • 飲み物にとろみをつける

     市販のとろみ剤を使用し、味噌汁やスープにとろみをつけることで、飲み込みやすさを向上させた。

  • 食材を柔らかくする

     圧力鍋を使って野菜や肉を柔らかくし、祖母が噛むことに苦労しないようにした。

  • 一口サイズに切る
     祖母が口に入れる量を調整しやすいよう、食材を一口大にカットして提供した。

これらの工夫を取り入れることで、むせる頻度が少しずつ減り始めた。


家族の支えと祖母の変化

ある日、祖母が私にこう言った。
「最近、少しずつだけど楽に食べられるようになった気がするわ。」

その言葉に、私たちはほっと胸を撫で下ろした。小さな改善の積み重ねが、確かに祖母の生活に良い影響を与えているのだと実感できた瞬間だった。

さらに、祖母自身も食事の際に姿勢を意識するようになり、ゆっくり食べることを心がけるようになった。それは、家族の努力に応えたいという祖母の気持ちの表れでもあったのだろう。


むせる音が減る日常

試行錯誤の末、むせる頻度は少しずつ減少していった。それでも完全になくなるわけではないが、家族全員が「何か問題が起きたらすぐに対応する」という意識を持つことで、食卓の空気は以前のように穏やかなものに戻りつつあった。

むせる音が減るとともに、祖母の笑顔も増えていった。それは、ただ食べられるようになっただけでなく、家族全員で支え合う食卓を作り上げた成果でもあった。

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