ICTと介護:私の体験談(第3部)

タブレット

チームワークを変えたICTの力

ICT導入以前、私たちのチームの情報共有は、朝と夜の引き継ぎ時に紙の記録を読み上げるのが主な方法でした。しかし、情報が断片的であったり、誰かの記入漏れがあると、全員が重要な情報を把握しきれないことが少なくありませんでした。その結果、利用者の体調変化に気づくのが遅れることもあり、対応が後手に回ることがありました。

ICT導入後は、チーム全員がタブレットでリアルタイムに情報を共有できるようになりました。例えば、夜勤中に利用者の体温が少し高かった場合、翌朝にその情報が全職員に通知されます。以前は夜勤職員がわざわざ口頭で説明しなければならなかったことが、記録の共有だけでスムーズに伝わるようになりました。

特に効果を感じたのは、新人職員がチームに加わった時です。新人は業務に慣れるまでに時間がかかるものですが、ICTが利用者一人ひとりの過去の記録をわかりやすくまとめてくれているため、利用者の状態を短期間で理解できるようになりました。「データを確認してから話しかけると、自然に会話のきっかけがつかめます」という新人の言葉を聞き、ICTが新人の不安を減らす手助けをしていると感じました。


ICTが生む新しい気づき

ICTがもたらしたのは、単なる業務効率化だけではありません。利用者の生活の中で見過ごされがちな「小さな変化」に気づくことができるようになったのも、大きな成果です。

ある利用者の例ですが、その方は普段から静かで、あまり体調について話さないタイプの方でした。ある日、タブレットでその方の食事量を確認すると、ここ数日間で徐々に摂取量が減っていることに気づきました。紙の記録では、このような小さな変化を見逃していたかもしれませんが、ICTのグラフ表示機能がすぐに変化を可視化してくれたのです。

私はすぐに話しかけ、「食欲がない感じですか?」と尋ねると、少し戸惑った様子で「最近、胃のあたりが重いんだ」と答えてくれました。この情報を看護師に伝え、医師に相談したところ、胃炎の初期症状が発覚しました。ICTを使って早期に気づけたからこそ、症状が悪化する前に対応できたのだと実感しました。


利用者とICTの新たな関わり

ICTは職員だけでなく、利用者自身にもポジティブな影響を与えています。特にタブレットを使ったデジタルアクティビティを取り入れたときの反応は印象的でした。

一度、利用者と一緒にタブレットを使って昔の風景写真を見ながら懐かしい話をしたことがあります。その方は、自分の生まれ故郷の写真を見つけて「懐かしいなあ」と嬉しそうに話し始めました。それをきっかけに、利用者同士の会話も弾み、普段は静かな方が積極的に思い出を語る場面が増えました。

この経験を通じて、ICTは単なる記録や管理のツールではなく、利用者の生活を豊かにするためのコミュニケーションの架け橋にもなるのだと感じました。


ICT活用で生まれた課題とその克服

もちろん、ICT導入には課題もあります。特に初期の頃は、システムが利用者ごとの詳細な情報を記録する分、入力の手間が増えたように感じました。そのため、忙しい時期には「こんなことをしている時間があれば、直接利用者と話したい」と感じることもありました。

この問題を解決するため、私たちは記録のルールを見直しました。「何でも細かく記録する」ではなく、利用者の安全や健康に直結する重要な情報に絞るようにしたのです。この工夫により、記録の負担が軽減され、余裕を持ってケアに取り組めるようになりました。

また、ITリテラシーの問題も避けて通れませんでした。特に、年配の職員の中には、「私は機械が苦手だから」と最初から諦めてしまう方もいました。しかし、そういった職員とペアを組み、操作に慣れたスタッフがマンツーマンでサポートすることで、少しずつ自信を持って使えるようになりました。「最初は無理だと思っていたけれど、今では意外と簡単だと思う」と笑顔で話してくれた瞬間が、私にとっても大きな励みになりました。


ICTがもたらす未来への期待

ICTを活用することで、私たちの介護現場は確実に変化しました。利用者一人ひとりにより深く寄り添えるようになり、職員同士の連携もスムーズになりました。そして何より、利用者が安心して生活できる環境を整えるための新しい手段を手に入れることができました。

しかし、ICT活用の旅はまだ始まったばかりです。次回は、さらにICTを活用してどのようなケアを実現できるのか、そしてどんな未来が見えてきたのかをお話しします。どうぞお楽しみに!

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