認知症の方の徘徊(はいかい)は、多くのご家族や介護者にとって大きな課題です。徘徊は本人にとっても危険を伴う可能性があり、家族にとっても大きな不安をもたらします。ですが、適切な対策を講じることで、徘徊によるリスクを軽減し、安全な生活環境を整えることが可能です。ここでは、認知症の徘徊について理解を深め、日常生活で役立つ具体的な対策を紹介します。
1. 認知症による徘徊の原因と特徴
徘徊は、認知症の症状の一つであり、見当識障害や不安感、記憶の混乱などが原因で引き起こされることが多いです。本人が「どこかへ行かなければならない」という焦りや、何かを探しに行くつもりで自宅を出てしまう場合があります。
- 見当識障害:時間や場所がわからなくなるため、目的地が定まらずに歩き回ることが多いです。
- 不安感や混乱:「家に帰りたい」「仕事に行かないといけない」といった、現実と異なる認識によって行動を起こしてしまいます。
- 記憶の混乱:特定の人や場所を探しに行こうとするものの、その理由や目的を忘れてしまうことがあります。
2. 徘徊対策の基本的な考え方
徘徊を完全に防ぐことは難しいですが、いくつかの工夫をすることで危険を回避し、安全に日常生活を送るためのサポートができます。徘徊対策は「本人の行動を制限する」ではなく、「安全を確保しながら見守る」ことを基本としましょう。
- 安全な環境づくり:自宅や周囲の環境を整え、安全に徘徊できる環境を作ることが大切です。
- 見守りシステムの導入:徘徊が発生した際に、すぐに気づけるような見守りシステムを活用します。
- 地域のサポート活用:地域包括支援センターや警察などと連携し、徘徊時に支援を受けられるようにします。
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3. 自宅でできる徘徊対策
徘徊のリスクを軽減するために、自宅でできる具体的な対策を紹介します。
(1) 玄関や窓に鍵を増設する
外に出てしまうのを防ぐために、玄関や窓の鍵を複数にする、または普段とは違う場所に設置するなどの工夫が有効です。また、電子錠などの設置も検討してみましょう。
- 工夫例:鍵を上下に二つ設ける、暗証番号を設定するなど、開閉に工夫を加える。
(2) 目印やサインで安心感を与える
家の中に「ここはあなたの家です」「安心して過ごしてください」といったメッセージや、徘徊先になりやすい場所(玄関や出入り口)に安心感を与える表示を置くことで、外出の意欲を減らす効果があります。
- 工夫例:自室やリビングに「ここは安全です」などのポジティブなサインを設置する。
(3) GPS機能付きの見守り機器を活用する
携帯型のGPS端末や専用の見守り機器を持ってもらうことで、徘徊の際にも居場所を確認しやすくなります。利用者が徘徊してしまっても、居場所を把握することで早期の保護が可能になります。
- 工夫例:GPS端末を装着したり、靴や衣類に入れておく。
(4) 動線を工夫する
徘徊しやすい時間帯やタイミングが分かっている場合は、家の中で気軽に歩ける動線を工夫して設け、外に出なくても歩き回れる環境を作ります。
- 工夫例:室内に歩きやすいスペースを作り、自由に歩ける動線を用意する。
4. 地域や専門機関のサポートを利用する
徘徊のリスクがある場合、地域や専門機関と連携してサポートを受けられる体制を整えておくことも重要です。
(1) 地域包括支援センターへの相談
地域包括支援センターでは、徘徊に関する相談や、地域の見守りサービスを紹介してくれることが多いです。また、事前に徘徊の可能性があることを伝えておくことで、地域全体での見守りが期待できます。
- サポート内容:徘徊者の情報共有や、地域ボランティアとの協力など。
(2) SOSネットワークの活用
多くの自治体では、徘徊者が外出した際に発見・保護されやすいようにするため、警察や近隣住民と連携した「SOSネットワーク」を設けています。事前に登録しておくことで、徘徊が発生した際に迅速な対応が取られやすくなります。
- サポート内容:警察や住民による見守り、発見時の早期対応。
(3) GPS見守りサービスの活用
自治体や介護サービス事業者が提供するGPS見守りサービスを利用することで、外出した際に通知を受け取ることができ、迅速に対応が可能です。
- 利用方法:端末やスマートフォンと連携して位置情報を確認し、外出時の早期発見に役立てます。
5. 徘徊予防のための心理的サポート
徘徊の予防には、心理的な安定を保つための工夫も重要です。本人の不安や混乱を軽減することで、徘徊の衝動を抑える効果が期待できます。
(1) 安定した日常リズムを作る
生活リズムが乱れると、不安感や混乱が増えやすくなります。食事や入浴、就寝の時間を規則正しく整えることで、日常生活に安心感が生まれます。
- 工夫例:毎日同じ時間に食事や就寝、起床を行う。
(2) 社会的交流や趣味活動を取り入れる
社会的な交流や趣味活動は、認知症の進行を遅らせ、精神的な安定感を高めます。デイサービスや地域のイベント、趣味活動などに積極的に参加させることで、徘徊の発生を防ぐことにもつながります。
- 工夫例:デイサービスに通う、地域サークルに参加するなどの機会を提供する。
(3) 家族や介護者の声かけで安心感を与える
不安や混乱が原因で徘徊が発生することが多いため、優しい声かけやコミュニケーションで安心感を与えることも有効です。「ここで大丈夫」「家族がそばにいる」という安心を本人が感じられるよう、積極的に声かけをしましょう。
- 工夫例:「何か困っていることはない?」と聞いて気持ちに寄り添う。
認知症による徘徊は、本人にとっても家族にとっても不安の種ですが、安全な環境づくりや地域のサポートを活用することでリスクを軽減することが可能です。徘徊を完全に防ぐことは難しいものの、環境や心理面からの工夫、さらにGPSなどの見守り機器や地域サービスを取り入れることで、安心して見守る体制を整えられます。