母の尊厳を守る旅3 母と家族が見つけた希望の光

母の笑顔が戻る日

母の排泄ケアを始めてから数か月が経った。最初は「迷惑をかけている」と感じていた母が、少しずつ私たちの助けを受け入れるようになり、生活に小さな安定が訪れた。

しかし、私たち家族は油断していたのかもしれない。ある日、母がトイレで転倒しそうになったのだ。幸いにも大事には至らなかったが、その出来事は私たちに再び大きな課題を突きつけた。

「これ以上、あなたたちに心配をかけたくないのよ。」
母の声は震えていた。母の言葉には、自分が負担になっているという思いと、自立したいという願いが込められているように感じた。

「お母さん、私たちが一緒だから大丈夫だよ。」
私はそう伝えたが、母の目に浮かぶ不安の色は消えなかった。その日から、私たちは「母が少しでも自信を取り戻せる方法」を真剣に考え始めた。


リハビリの可能性

私たちは母の生活をより快適にするために、新たな方法を模索した。地域の介護相談窓口に足を運び、そこでケアマネジャーに相談したところ、母に適したリハビリプログラムを提案してもらった。

「リハビリなんて大袈裟だわ。」
最初、母は消極的だった。けれども、「無理のない範囲で少しずつやってみよう」という私たちの説得に折れ、週に一度のデイサービスでのリハビリを受け入れることになった。

デイサービスでは、母と同じように身体機能の改善を目指す高齢者たちが集まり、専門スタッフのサポートのもと軽い運動を行っていた。初めて参加した日の母は、緊張の面持ちだったが、帰ってくると「皆さん優しかったわ」と少しだけ明るい表情を見せた。

「無理せず、楽しむつもりで通えばいいんだよ。」
私たちはそう言いながら、母を励ました。リハビリを通じて、母は少しずつ自信を取り戻し始めた。


小さな進歩の喜び

リハビリを続ける中で、母には小さな進歩が見られるようになった。それはトイレの移動が少しスムーズになったり、夜中に起きる回数が減ったりといった、些細な変化だった。しかし、それが私たち家族にとってどれほどの希望をもたらしたかは言葉にできない。

「今日は一人でトイレに行けたの。」
母がそう誇らしげに話してくれたとき、私たちは心から喜び、母の努力を称えた。その小さな成功体験が、母の表情をさらに明るくした。

「できることが増えると楽しいね。」
母の言葉に私たちは頷き、これまでの苦労が報われるような気持ちになった。


家族との新しい絆

母がリハビリを始めてから、家族の雰囲気も変わり始めた。以前は「介護しなければならない」という義務感が強かった私たちだが、今では「母を支えることが家族の絆を深める時間になっている」と感じるようになった。

例えば、リハビリの日には父が母を送り迎えし、兄弟が母の進歩を聞いて喜び合う。家族全員が母の変化に寄り添い、それを共有する時間が増えた。

また、家族で「母の役割」を残す工夫も始めた。母が得意だった料理を手伝う時間を作り、簡単な作業をお願いすることで、母が「自分も家族の一員として役に立っている」と感じられるようにした。

母は最初、手伝いながら「もうこんなに手先が不器用になったわ」と笑っていたが、その笑顔には以前よりも前向きなエネルギーが感じられた。


支え合う中で見つけた母の尊厳

排泄ケアの中で、私たち家族が最も大切にしていたのは「母の尊厳を守ること」だった。それはリハビリや日常のケアを通じて、母が少しでも「自分らしさ」を取り戻せるように支えることでもあった。

例えば、母が自分の排泄のタイミングを自分で決められるように、小さなスケジュール帳を用意した。「2時間おきにトイレ」といったリズムを母自身が管理できるようになったことで、母は「自分のことを自分で決められる」という安心感を取り戻していった。

「ありがとう。あなたたちのおかげで、まだまだ自分でできることがあるって思えるわ。」
母のその言葉が、私たちにとって何よりのご褒美だった。


ケアの中で気づいた希望

リハビリを続ける中で、母が日々見せる笑顔が家族の心を支えていた。もちろん、課題がすべて解決したわけではない。排泄ケアは今も必要で、私たちの努力も続いている。

しかし、その中に希望の光を見つけられたことが、私たちにとって何よりも大きな収穫だった。母が自分の進歩を楽しみ、家族がその変化を共有しながら前を向いて歩む姿は、介護が単なる負担ではなく、絆を深める貴重な時間であることを教えてくれた。

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