母の介護を始めて3年が経った頃、私の生活は少しずつ落ち着きを取り戻しつつあった。デイサービスや訪問介護のおかげで、介護が完全に孤独な作業ではなくなり、地域の人たちとも気軽に話せるようになっていた。
地域活動への参加
ある日、デイサービスのスタッフから「地域の介護者向け交流会があるから参加してみませんか?」と誘われた。最初は少し気が引けたけれど、試しに行ってみることにした。
交流会では、私と同じように介護をしている人たちが集まり、日々の苦労や工夫を話し合っていた。その中で、70代の女性がこんな話をしてくれた。
「私も夫を介護しているけど、みんなで話すと『一人じゃないんだ』って思えるのよね。」
その言葉を聞いた時、私はふと涙がこぼれそうになった。ずっと一人で戦っている気がしていたけれど、この地域には私と同じように頑張っている人がたくさんいる。それを知っただけで、心が軽くなった気がした。
母との絆
交流会で得たヒントを元に、私は母との時間をもっと大切にしようと思うようになった。それまで「介護=義務」という意識が強かったけれど、少しずつ「一緒に楽しむ時間を増やす」という考え方に変わっていった。
ある日、私は母と一緒に庭で小さな花壇を作ることにした。母が車椅子に座りながら、「ここに花を植えて」と指示を出し、私はスコップで土を掘った。二人で土いじりをしながら、母が昔の話をしてくれる。
「お父さんと結婚した頃、この庭にも花をたくさん植えたのよ。」
母の穏やかな笑顔を見て、私は胸がじんと熱くなった。
新しい挑戦
そんな中で、私は新たな挑戦を始めることにした。それは、介護の経験を生かしてブログを書くことだった。地方での介護生活のリアルや、デイサービスの活用法、心の持ち方などを発信することで、同じように悩む人の助けになりたいと思ったのだ。
初めてブログに投稿した日は、少し緊張した。でも、数日後に「私も地方で介護をしています。真由美さんの記事に励まされました」というコメントをもらった時、心が温かくなった。
「私の経験が、誰かの支えになれるんだ。」
そう思うと、介護生活に少し意味を感じられるようになった。
母の小さな一歩
母もまた、少しずつ変化していた。リハビリの成果で右手が少し動くようになり、デイサービスで習った手芸に夢中になっていた。ある日、母が私に小さな刺繍の入ったハンカチを渡してくれた。
「まだ不器用だけど、頑張って作ったのよ。」
そのハンカチを手に取った瞬間、私は涙が止まらなくなった。母が前を向いて生きようとしている姿に、私も励まされた。
地方で生きる意味
田舎に戻ってからの数年間は、決して楽な日々ではなかった。でも、母との時間や地域の人たちとのつながりを通じて、私は「地方で生きる」という新しい意味を見出した気がする。
ある日の夜、満天の星空を見上げながら私は思った。
「ここでの生活には、都会にはない静かな温かさがある。」
介護をきっかけに戻った田舎の生活。でも、それは私にとって「自分自身を見つける旅」でもあった。
【エピローグ:未来へ向けて】
母との生活はまだ続いている。介護が終わる日はいつか来るのかもしれないけれど、それまでは一日一日を大切に過ごしていきたい。
私はこれからも、地方での介護のリアルを発信しながら、自分自身の生き方を模索していくつもりだ。そして、同じように悩む人たちとつながりながら、支え合っていけたらと思う。
「一人じゃない。」
そう思えるだけで、人生は少しだけ軽くなる気がするから。