【第三章:支え合いと新たな選択】
ケアマネージャーの佐藤さんと話した日から、私は少しずつ母の介護に外部の助けを取り入れることを考え始めた。それまで「家族が面倒を見るべき」という思いに縛られていたけれど、それが自分自身を追い詰めている原因でもあると気づいたからだ。
訪問介護の導入
最初に試したのは訪問介護だった。週に2回、ヘルパーさんが家に来てくれるというサービスだ。母に話した時、最初は難しい顔をしていた。
「他人にお世話されるなんて恥ずかしい。」
そう言って断られると思っていたけれど、意外にも母は「じゃあ試してみようか」と前向きだった。
ヘルパーさんが来た初日、私は部屋の隅で彼女の様子を見ていた。明るくハキハキとした人で、母に話しかけながらテキパキと作業をこなしている。その姿を見て、少しだけ肩の力が抜けた気がした。
デイサービスの挑戦
次に勧められたのがデイサービスだった。週に1回、母を施設に送り届けて、そこで他の利用者と一緒に過ごすというものだ。母は「知らない人ばかりで気を遣う」と言っていたけれど、佐藤さんが根気よく説得してくれたおかげで、通うことになった。
初めて母を施設に送った日の帰り道、私は車の中でほっとした。ほんの数時間でも自分の時間ができるのは思った以上にありがたかった。カフェに寄ってコーヒーを飲みながらぼんやりするだけで、心が軽くなるのを感じた。
帰宅後、母に「どうだった?」と聞くと、少し疲れた様子ではあったけれど、「みんな親切にしてくれた」と微笑んでくれた。その笑顔を見た瞬間、私の中に少しずつ余裕が戻ってきた気がした。
地域とのつながり
介護の支援を受け始めたことで、地域との関わりも増えてきた。訪問介護やデイサービスのスタッフだけでなく、同じように家族を介護している人たちとも少しずつ話す機会ができた。
「最初は本当に大変でね。でも、少しずつ慣れるものよ。」
そう話してくれたのは、70代の女性だった。彼女は夫の介護をしているそうで、「息抜きも必要よ」とアドバイスをくれた。その言葉に、私は少しだけ救われた気がした。
母の変化
支援を受けるようになってから、母にも少しずつ変化が現れた。デイサービスに通うようになってから、リハビリを頑張るようになり、表情が明るくなった気がする。
「今日ね、施設で折り紙を教えてもらったの。」
そう言って見せてくれた鶴は少し不格好だったけれど、母が楽しそうに話す姿を見て、私も心が軽くなった。
自分自身を取り戻す
支援を受け始めてから、私は少しずつ自分自身の時間を持てるようになった。短時間でも趣味に取り組んだり、友人と電話で話したりすることで、心が楽になるのを感じた。
ある日、ケアマネージャーの佐藤さんに言われた言葉が印象的だった。
「介護を続けるためには、介護者自身が元気でいないといけません。自分を大切にすることも、立派な介護ですよ。」
その言葉は私の心に深く刺さり、それ以来、私は自分を責めることを少しずつやめることにした。
新たな決意
介護の現実は、やっぱり簡単なものではない。それでも、支援を受けたり、地域の人とつながったりすることで、孤独感が薄れていくのを感じた。
「私がここに戻ってきたのは、無駄じゃなかった。」
そんな風に思える日が、少しずつ増えてきた。