介護現場でのICT活用を始めたきっかけ
私は10年以上、介護業界で働いています。日々の業務に追われる中で、「どうにかしてこの作業負担を減らせないか?」と感じることが多くありました。特に、紙ベースの記録業務や、利用者の状況を職員間で共有することの難しさは、長年の課題でした。そんな時に出会ったのが、ICT(情報通信技術)を活用した介護業務の効率化という考え方でした。
初めてICTを知ったのは、介護施設向けの業務支援システムの展示会でした。タブレットやスマートフォンを使って、介護記録や利用者の状況を簡単に管理できるという説明を聞いたとき、私は半信半疑でした。現場の介護は複雑で、そんなに簡単に効率化できるものなのか?と。しかし、実際にデモを見てみると、その可能性に驚かされました。
ICT導入の初期段階:戸惑いと期待
私が勤める施設では、ICT導入を決定するまでに多くの議論がありました。ベテラン職員の中には、「そんな機械で介護が良くなるわけがない」「高齢者のケアに必要なのは人の手と心だ」という反対意見も少なくありませんでした。一方で、若い職員を中心に、「記録が簡単になるなら、利用者にもっと時間を割ける」と期待を寄せる声も多く聞かれました。
導入初期は、正直、職員全員が使いこなせていたわけではありません。私自身も慣れるまでに時間がかかりました。特にタブレット端末に記録を入力する際、紙の記録用紙に慣れているため、「どうしても違和感がある」「入力が遅い」と感じることが多々ありました。しかし、慣れてくると、紙の記録では難しかった検索機能や統計機能が便利であることに気づき、効率化の実感が少しずつ得られるようになりました。
ICTが変えた介護記録の世界
ICTを活用する最大のメリットは、記録の効率化です。私たちが導入したシステムでは、利用者ごとのバイタル情報や日々のケア記録をタブレットで入力できるようになりました。たとえば、利用者の血圧や体温を測定した後、その場でタブレットに入力すると、瞬時に全職員がその情報を共有できます。以前は、記録用紙を職員が回し読みしなければならず、情報共有に時間がかかっていました。
また、システム上で記録されたデータを分析し、利用者の体調の傾向をグラフ化する機能も非常に有用でした。例えば、ある利用者の体重が減少傾向にある場合、早期にそれを把握し、栄養士や看護師と連携して対応策を講じることが可能になりました。こうしたデータの可視化は、利用者の健康管理に大いに役立ちました。
介護職員同士の連携がスムーズに
ICTを導入して大きく変わったのは、職員同士の情報共有です。以前は、夜勤の職員が日勤職員に対して紙の記録を渡して口頭で引き継ぎをしていました。しかし、タブレットに記録を残すことで、夜勤中の重要な出来事が翌朝には全員に共有されており、引き継ぎミスが減少しました。
さらに、利用者の状態変化をリアルタイムで記録し、その情報がすぐにチーム全員に共有されることで、対応が迅速になりました。例えば、利用者が夜間に発熱した場合、その情報が早朝には全職員に共有されており、医師への連絡や対応がスムーズに行えます。このように、ICTはチームケアの強力な助けとなっています。
課題も存在:ICTを完全に活用する難しさ
もちろん、ICT導入には課題もありました。一つ目は、導入コストの問題です。システムの購入費用や維持費、職員への教育コストが発生し、小規模施設では負担が大きいと感じる場面もありました。二つ目は、職員のITリテラシーの差です。若い職員はすぐに慣れる一方、年配の職員の中には、タブレットの操作に苦戦する方もいました。
また、ICTに頼りすぎることで、記録作業が効率化される一方、「利用者との対話が減ってしまうのではないか」という懸念もありました。実際、システム操作に気を取られすぎて、利用者とじっくり向き合う時間が減ると感じることもありました。
次回予告
ICT導入が進む中で、私たちはどのようにこれらの課題を克服していったのか、そして利用者や家族との関係がどう変化していったのか。第2部では、ICTと人間らしいケアの両立を目指した取り組みについてお話しします。続きもぜひご覧ください!