移乗介助のやり方とコツ– 利用者の負担を軽減する介助のコツ –

車椅子B

移乗介助は、ベッドから車椅子や椅子などへの移動を安全かつ快適にサポートする介護の重要なスキルです。利用者の負担を最小限に抑えながら、介助者自身も身体への負担を軽減する技術が求められます。本記事では、移乗介助の基本的な方法、必要な準備、器具の使用方法、そして安全面での注意点を詳しく解説します。

移乗介助の目的と重要性

移乗介助は、利用者が自分だけで移動することが難しい場合に行うサポートで、車椅子からベッド、トイレ、入浴用椅子などへの移動を安全に行うために欠かせない介助です。


移乗介助を適切に行うことは、利用者の身体への負担を減らし、安心して移動ができる環境を提供することにつながります。また、正しい技術で行うことにより、介助者自身も腰痛などの身体的な負担を減らすことができます。

移乗介助のやり方

1. 事前準備

移乗介助を行う前に、まず移動する位置と環境を整えます。例えば、ベッドから車椅子への移乗では、車椅子をベッドのすぐ横に配置し、車椅子のブレーキをかけ、ベッドと車椅子の高さが適切に合うように調整します。介助者も負担を減らすため、足元に滑り止めマットを敷くことが推奨されます。また、移乗に必要な器具(介助ベルトやリフトなど)がある場合は、事前に準備しておきます。

2. 姿勢の確認と調整

移乗開始前に、利用者の体勢を整えます。利用者がベッドの縁に安定して座れるようサポートし、背筋を伸ばした状態を保ちます。足元がしっかりと地面についているかを確認し、移乗がスムーズに行える体勢に整えます。介助者も腰を落として膝を曲げ、移乗時のバランスが取りやすい姿勢を確保します。

3. 移乗のサポート

移乗の際、介助者は利用者の腰や肩をしっかり支え、体重を分散させながら移動をサポートします。利用者に軽く前かがみになってもらい、足を支点にしてゆっくりと移動します。利用者が支えやすいように、片手は利用者の腰、もう片方の手は肩に添えることで安定性が増します。移動の途中でバランスを崩さないよう、ゆっくりとしたペースで進めることが大切です。

4. 移乗後の姿勢確認

移乗が完了したら、利用者が安全に座れるように体勢を整えます。車椅子や椅子に深く腰掛けてもらい、足元が安定しているか確認します。また、利用者が体を支えるための手すりやクッションがある場合は、位置を調整して、快適に過ごせるようにします。

安全で効率的な移乗介助のポイント

1. 利用者の状態確認

移乗介助では、利用者の身体状況に応じたサポートが必要です。筋力やバランス感覚に不安がある方や、体重の重い方には特別な配慮が求められます。事前に体力や筋力を確認し、必要に応じて器具を使用するなどの工夫を行います。利用者が移乗時に不安を感じないよう、落ち着いた声かけを行いながら進めます。

2. 周囲の環境整理

移乗介助中の安全確保のため、周囲の環境を整えることが大切です。移乗場所の近くに転倒の原因となる物がないか確認し、歩行経路や周囲の物が片付いているかを確認します。また、滑りやすい床材の場合は滑り止めマットを敷くなどして、安全性を高めます。

3. 力の分散と正しい姿勢

介助者も腰や膝に負担がかからないよう、正しい姿勢を保ちます。利用者の体重を持ち上げるのではなく、支えるようにして力を分散させることで、腰や背中の負担を軽減できます。膝をしっかりと曲げ、重心を低く保ちながら作業を進めることが、介助者の負担を減らし、より安定した介助を提供するための基本です。

移乗に役立つ補助器具の種類と使い方

1. 介助ベルト

介助ベルトは、利用者の腰や腹部に巻き付け、介助者が支えやすい状態を作る補助具です。ベルトを装着することで、移乗時にバランスを保ちやすくなり、介助者も支えやすくなります。使用する際には、ベルトがしっかりと固定されているかを確認し、利用者が痛みを感じないように注意します。

2. スライディングボード

スライディングボードは、ベッドや車椅子の間に板を渡して移乗を補助する器具で、滑らせるように移動できるため、移乗がスムーズに行えます。利用者の手や足元をしっかりと支えながら、板の上を滑るようにして移乗を行います。スライディングボードは、特に車椅子からベッドへの移乗で便利です。

3. 移乗リフト

移乗リフトは、利用者の体を吊り上げて移動する装置で、体重のある方や筋力の低下した方に適しています。リフトを使用することで、介助者の負担を大幅に軽減できますが、操作方法に慣れておくことが大切です。リフトのアームやベルトが安全に取り付けられているか確認し、ゆっくりと移動させます。

移乗介助での転倒防止の工夫

1. しっかりとした声かけと確認

移乗介助中は、利用者が安心して介助を受けられるよう、落ち着いた声かけを行います。移乗のタイミングや動作の内容を説明し、「これから動きます」「足を持ち上げてください」などの具体的な指示を伝えます。利用者が動作を理解しやすいように、ゆっくりとしたペースで説明します。

2. 支えやすい姿勢の確保

移乗時に利用者がバランスを崩さないように、安定した姿勢を保てるようにサポートします。片足を前に出して膝を軽く曲げ、介助者の体に重心を移すことで、移動中のバランスが取りやすくなります。利用者が動きやすいように、適切な体勢をとらせてから移動を開始します。

3. 短い移動での対応

長距離の移動は転倒リスクを高めるため、移乗介助では短い距離の移動を優先します。ベッドから車椅子や椅子などへの移動であれば、できるだけ距離を短くし、無理のない範囲での移乗を心がけます。また、移動中に小さな休憩をはさみ、利用者が安定しているかを確認しながら進めます。

特別な配慮が必要な移乗介助ケース

1. 認知症の方への移乗介助

認知症の方の移乗介助では、理解力の低下や不安感から突然動いたり抵抗したりすることがあります。そのため、穏やかな声かけを行い、動作をゆっくりと説明しながら進めます。決まった手順で行うことで、利用者が安心感を持てるようにし、突然の動きが少なくなるように工夫します。

2. 筋力が低下している方への移乗介助

筋力が低下している方には、通常よりも強力なサポートが必要です。特に足や腰の筋力が低い場合は、介助者がしっかりと支えることで転倒を防ぎます。移乗リフトやスライディングボードなど、筋力の低い方に合わせた補助器具を活用し、できるだけ安全かつ快適に移乗ができるように配慮します。

移乗介助を行う介助者の負担軽減のための工夫

1. 正しい姿勢と動作の習得

移乗介助を行う際には、介助者自身も正しい姿勢と動作を習得することが重要です。膝を曲げて腰を低くし、足を支点にして体重を利用しながら支えることで、腰や背中への負担を減らせます。定期的に体の使い方を見直し、無理なく介助ができる姿勢を保ちます。

2. 補助器具の活用

移乗介助に必要な補助器具を積極的に活用することで、介助者の身体的負担を軽減できます。特に重量がある利用者の場合、リフトやスライディングボードなどを使用することで、移乗作業を安全に行えます。補助器具の使用方法を十分に理解し、適切に活用することで、介助者も利用者も安心して移乗を行えるようにします。

3. 精神的サポートと相談環境の確保

移乗介助は、介助者にとって身体的な負担だけでなく、精神的な負担も大きくかかる場面です。介助者がストレスを抱えずにケアを行えるよう、チームでの情報共有や相談体制の整備が大切です。必要に応じて他の介助者と協力し、無理のない範囲でのケアを心がけます。

移乗介助については、新潟県社会福祉協議会の『在宅介護に必要な基本介護技術「起き上がりの介助、車いすの移乗」篇』も参照にしてください。

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